住宅街で見つけた小さなBarに飛び込んでみる。

あまり馴染みの無い街へ行った際は、たいてい駅周辺を少しブラブラ歩きしてから帰ることにしている。

仕事帰りにちょっとした用事があったので途中下車した駅。 通勤経路なのでこれまでも何度か降りたこともあり全く知らない場所でも無いのだが、今までは本当に駅の周囲だけしか歩いたことが無かったのでもう少しだけ先まで散策してみることにした。

それほど大きな駅でもないのでロータリーから200mも歩けば普通の住宅が増えてくる。 住宅地の中にときおり商店や食堂、飲み屋などが現れるのはなかなか興味深く、しばらくキョロキョロしながら歩いているとふとハイネケンの看板が目に留まった。

こんなところにBarがあるという意外性に興味を惹かれたものの、この手の隠れ家的Barの多くがそうであるように窓は見当たらず店内を窺う術が無い。

飛び込みで入るにはいささかリスクが高そうな案件。 中で常連達が盛り上がっていたりしようものなら目も当てられない結果になりそうだ。

店の前を何度か通り過ぎて気配を感じてみる。 こういう時は己の直感に頼るしかないが、なんとなく店内に先客はいないか、いても一人くらいなような気がした。 そして不思議と「ええい、いてまえ」と大胆になれる日というのが存在して、この日がまさにそれだった。

ゆっくりと扉を開けてみると小さめのジャズが聴こえてきて、薄暗い店内に目が慣れると果たして先客はゼロであった。

「ひとりなんですけど一杯いいですか」

「もちろんです。お好きな席どうぞ」

カウンターに座ると、白髪で感じの良さそうなマスターがコースターを置いてくれた。 さりげなく店内を見回してみるがメニューらしきものは無く、そしてマスターが渡してくれる様子も無い。

「・・・これはいわゆるメニューの無い店ってヤツ・・・」 そのまんまの感想と若干のビビリが芽生える。 もしやちょっと上級者向けの店なのではないか・・・自分みたいな何にもわかっていない素人がやってしまったかもしれない。

動揺を隠しつつ「カクテルを飲みたいんですけど・・・」 そして私がカクテルを注文する際の常套句「苦めでスッキリした感じのショートカクテルで」と続ける。

カクテルの種類や他の味の表現をしらない為、バカの一つ覚えのように毎回この注文をしてしまうのだ。

マスターは「ジンベースでいけますか?」「ライムでスッキリさせますね」と言い、作ってくれたのがこちら。

アルコール強めでシャープな感じ、美味しい。

ただ、空きっ腹で来てしまったのは失敗だったかもしれない。 この強さは確実に酔いそうだ。 今さらかもだがおつまみとしてサラミを注文する。

マスターと多少の世間話をしながらちびちびとやっていたつもりだが、いつの間にかカクテルは空になってしまった。 値段がわからない以上不安は拭えないのではあるが、一杯だけで帰るのもなんだかなと思い「もう一杯だけお願いします」「さっきのとちょっと違う感じで」 完全にマスターにお任せの注文にしてみた。

出てきたのはこちら。 なんと美しい色合い・・・これぞカクテルという感じ。

口に含んでみると甘さが強めに来るものの、これまた酔いそうな・・・ でも一杯目とはまったく違うテイストにしてくれたのが嬉しい。

感想を何も言わないのも少々気まずいので「これは何と何が入っているんですか?」と尋ねてみる。

「ウイスキーベースでベルモットという甘いお酒が入っています」「マンハッタンというカクテルになります」

えー!これがあの有名なマンハッタンなのか、、、私ですら名前を知っているくらいのメジャーなカクテル。。。

ちょっと恥ずかしい質問しちゃったかな、、、と動揺しつつ、でもこうやって新たな知識を得られただけでも今日ここに寄った甲斐があったというものだ。

マンハッタンを飲み干したので、そろそろ切り上げねばならない。 大丈夫かなぁ、お金足りるかなぁ、カードやPayPayは使えそうにはないし・・・

出された請求は、まぁ安いとは言えないものの想定内に収まる範囲でホッと一安心。 

帰り道。 いやぁそれにしてもガッツリ酔った。 千鳥足とまではいかないもののフワフワと雲の上を歩いているような感じ。

何とか無事に家まで戻ろう。

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