雪の夜に思い出すこと。

さっき雪が降ってきた。 大阪に住んで10年以上になるけれど積もったのを見たのは今までに数回程度だ。 積もると言っても翌日の昼くらいにはきれいさっぱり溶けて無くなっちゃうくらいだけども。 今日の雪もせいぜいクルマの屋根をうっすら白くする程度で終わりだろう。 大阪の南部というのはそれくらい雪が降らないのだ。

僕は北国で育ったので雪は日常だった。 冬の間は屋根の雪下ろしを手伝うのが当たり前だったし、そもそも家の前の雪をどかしてからで無いと学校に向かう道まで出られないような日もあった。

雨を含んだ重たい雪が降った次の朝、出勤する父親と一緒にクルマに積もった雪をおろしたら、ルーフ全体がすり鉢状にベッコリと凹んでいたことがある。 事故を起こした訳でもない愛車のボディが盛大に凹むというのは結構ショッキングな事態のはずだけど、雪の重みで描かれた芸術的なまでにきれいな逆Rを見た僕らは何だか楽しくなってきて笑ってしまった。 そして二人で車内からルーフをグイグイ押しまくって元の形に戻したのだ。(キレイに元通りになった) 30年以上経った今でもすごくクッキリと覚えている思い出だ。

小学生の僕は冬のあいだ耳たぶにずっとしもやけができていて大雪の日は特に痛んだ。 アノラック(防寒着のことを皆そう呼んでいた)を着て、滑りにくいスノーシューズ(なんか別の名称があったはずだけど思い出せない)を履き、雁木の下を通って学校に向かう。(雁木というのは歩道の上に付けられた雪よけのひさしのこと)

暖かい教室に入ると今度はしもやけが痒くなってきて掻いてしまうという悪循環。 耳のしもやけのせいで僕は冬が嫌いで雪の日はいつも半ベソ状態で学校に行っていた。 雪が降らないところに住みたい。 冬になると毎年そう思っていたはずだ。

Snow

数日前東京に降った大雪のニュースを見て、不謹慎ながらちょっと羨ましかった。 あの雪の中を目的もなく歩き回りたいという欲求。 通勤・通学の混乱に巻き込まれたヒト達にとっては悪夢でしかないんだろうけど、今の僕ならそれも楽しめそうな気がする。

子供の頃はあんなにイヤだった大雪なのに、なんだかすごく懐かしくて、そしてなぜだかちょっと切ない気持ちになる。

今思えばあの頃の雪はニュースで見た東京の雪のように排気ガスで薄汚れたビチャビチャの雪じゃなかった。 朝早く、まだ誰にも踏み込まれていない公園で真っ白な雪に飛び込み、そしてそれを平気でムシャムシャと頬張っていたのだ。 小学校の近くには低い山があり、体育の授業にはスキーの時間があった。 なんという贅沢な環境。

子供の頃の思い出はだいたいにおいて美化されてしまうものだけど、それを差し引いても雪国暮らしは悪くなかったな。 今は素直にそう思っている。

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