上海、ピンクのVネックとピンクの謎肉丼。

もう8年か9年くらい前だと思うが、中国の上海に一人で遊びに行った。 特にこれといった目的も無く行ったので、基本的には街を歩き回るのがメイン。 夏場だったので必然的に汗だくになり着替えが底をついてしまった。

適当なシャツでも買おうと目抜き通りに出て、中国版のユニクロのような店に入る。 スリムなシルエットで細いストライプが入った黒の襟付きシャツを選びレジに向かおうとすると、若い女性店員が何やら中国語で話しかけてきた。 「ごめんなさい。中国語わからないんです」と言うと、彼女は色とりどりのインナーシャツが積まれたコーナーを指差した。 インナーも一緒にどうですか?ということだろう。

普段ならあまりついで買いはしないが、せっかくの機会だ。 今回は彼女の提案に乗ってみようと思った。 どの色にしようか迷っている僕の近くでジッと待っている彼女。 僕はその空気がいたたまれなくなって「どんな色がいいんだろうね」的なことを彼女に言ってみた。

「ピンクかな」 それも淡い色ではなく、結構ガッツリのピンクを彼女は指差した。 普段なら絶対に選ばない色だろう。 しかし旅行中のテンションというのは本当に恐ろしいもので、ちょっと躊躇しつつも僕は黒のシャツと一緒にそのピンクのVネックシャツを買ってしまっていた。

ホテルに戻って着替えてみると、案の定後悔の念に襲われた。 もう絶望的に似合わない。 当たり前だ。 細身のシルエットの黒シャツと派手なピンクのVネックなんてのは、超絶イケメンかチャラ男ホストくらいにしか許されるものではない。 旅行中のちょっとした浮かれ気分が引き起こした悲劇。 まぁ、黒の襟付きシャツが思いのほかしっかりしていて、形もキレイだったのがせめてもの救いだ。

僕はなるべくシャツのボタンを上まで閉め、晩御飯を食べに外出することにした。 Vネックショックからまだ立ち直れていないため、あまり遠くまで出歩くことはやめ、ホテルの近くで見つけた庶民的な食堂に入ってみることにする。

地元民向けのその食堂には、当然のごとく英語メニューや日本語メニューなんてものは無かった。 とりあえずある程度腹にたまるものが食べられれば良かったので、中国語のメニューから「たぶん肉と野菜が入ったドンブリ的なもんだろな」という品とコーラを注文する。

しばらくして運ばれてきたのは、とろみのついた肉野菜炒めがゴハンの上に乗せられた、日本でいう中華丼的な料理だった。 「日本でいう中華丼」っていうのもおかしな話なので、それこそを”中華丼”と呼ぶべきかも知れない。 アツアツの湯気が立ちのぼり中々おいしそうだ。

僕が知る中華丼とひとつだけ違っていたのは、入っている肉の色が激しくピンク色だったことだ。 ローストビーフの断面のような、レアっぽいピンク色ではない。 バリバリ100%火が通っているにもかかわらずの華やかなピンク。 今まで生きてきて一度も見たことのない色の肉だ。

恐る恐る食べてみたが、味は別に悪くない。 メチャメチャ美味しいということもないが、固かったり臭みがあったりすることもなく、無事最後まで完食した。 襟元からチラチラのぞく僕のVネックシャツとその謎肉が全く同じ色だなぁ、と思いつつ。

黒の襟付きシャツは実はなかなかの逸品だった。 その後何回洗濯をしてもほとんど型崩れや色落ちせず、僕の夏場のヘビーローテーションとなった。 そして今でもクローゼットに収まっている。

そのシャツを羽織るたび、あの時の上海旅行を少しだけ思い出すけども、クッキリと具体的にアタマに浮かんでくるのは、いつもあのピンクのVネックシャツと謎肉丼のことになってしまう。

Lujiazui at Night

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