今から20年以上前の話になる。 当時大学生だった私はコンビニでアルバイトをしていたのだが、ある日ネパール人のカパリさんという男性が新人として入ってきた。
新人と言っても年の頃なら30代前半から半ばというところだろうか。 浅黒い肌に理知的な顔立ちの真面目そうな人だった。
聞けば祖国に妻子を残して日本に何らかの(詳しく聞いたような気もするのだが忘れてしまった)技術を学びに来ているらしい。
今でこそ都心のコンビニに行けばスタッフの殆どが外国人ということも何ら当たり前だが、当時、しかも地方の小都市ではかなり珍しいことだったと思う。 カパリさんは日常生活に困らない程度の日本語は話せるので特にコミュニケーションに困ることは無かったものの、とは言えやはりお客さんの要求が正しく理解できなかったりで色々と辛い思いをすることもあっただろう。 それでもイヤな顔ひとつ見せずに黙々と働く姿が印象に残っている。
そんな性格のカパリさんだから、私たち先輩(ずっと年下ではあるが)アルバイトやパートさんからも親しまれていたのだが、正直なところ私たちの中にどこかカパリさんのことを面白おかしく周りに話したり、やもすれば「貧しい国から来た人」として無意識に下に見てしまいがちな面はあったのだと思う。 今思えば親のスネをかじりながらヘラヘラ過ごしている大学生と高い志を持って遠く離れた国へ技術を学びに来ている人とを比較することすら憚られるのだが、当時はそういったところまで考えが及ばなかったし、色々と失礼な言動もあったのだろうと今更ながら申し訳なく思っている。
あれから20数年経った今、日本のコンビニや飲食店で働く外国人の姿がごく当たり前のものになる一方、もはや「豊かな国民」では無くなった我々日本人も今後海外へ職を求めざるを得ない状況になってゆくだろう。 もしかしたら我々の子供たち世代の話では無く、自分自身が日本に家族を残し、かつては「発展途上国」として下に見ていた国々へと出稼ぎに行くことも現実味を帯びてきた。
そうした立場に置かれた時、自分はあのカパリさんのように遠く祖国を離れた地で、誠実に黙々と、そして笑顔を絶やさずに働けるだろうか。 あの頃のカパリさんよりも今の自分はずっと年上だけど、正直あまり自信が無い。
大学卒業が近くなり、私はアルバイトを辞めた。 FacebookもLINEも無い当時、電話番号くらいは交換したような気もするのだが、結局その後連絡を取ることも無く、それはいつの間にかどこかに紛れてしまった。
カパリさんが今どこで何をしているかは知る由も無い。 しかし場所はどこであれ家族と一緒に幸せに暮らしているように思う。