東京に出張へ行った。 もともと大した仕事もしていないので、用事が済んだ後には自由になる時間が結構ある。
ふと、ここから電車で2、3駅行ったところにかつての同僚が住んでいることに気付いた。 独立して夫婦でお店を営んでいるのだ。
一緒に働いていたのはもう20年も前。 年齢的には僕の方が上で一応は先輩ということになるのだが、そういったことはどうでもよくさせてしまうフランクさを持つオトコだ。 コミュ障気味の僕でも気楽に冗談を飛ばせる相手として、正直なところ貴重というかありがたい存在でもあった。
お店のホームページを調べて電話を掛ける。 彼が店をオープンしてもう12年以上経つのだが、なかなか機会を作れなくて(いや、僕が工夫して作ればいくらでも機会はあったのだ)未だ訪問したことが無いのである。
奥さんが電話に出る。 あいにく本人は用事で外出しているがじきに戻ると言う。 突然の連絡を詫びながら快く訪問を受け入れてくれたことにホッとした。
お店は駅から歩いて6、7分のところにあった。 大きくて立派とは言えないもののスッキリと小綺麗にまとまっていて、彼いやおそらく奥さんの丁寧な性格があらわれたような店舗だ。 平日の昼下がり、たまたま客がいなかったので店内で好き勝手に話が出来た。 会うのはおそらく7、8年ぶりくらいだが、彼の生来のフレンドリーさに助けられ仕事の話からくだらない雑談まで行ったり来たりしつつ会話が弾んだ。
ネット通販全盛の時代、彼の店も決して先行きは明るくないとは言うものの、こうやって10年以上、地元に定着し商売をしていることはスゴいと思うし正直羨ましくも感じた。 サラリーマンとしての肩書きを取ったらたぶん何もできないであろう自分とは違うなと。
もちろん、僕には計り知れない苦労も多々あるのだろうけども。
帰り際、店の前にある自販機で買った缶コーヒーを「よかったら帰りに飲んでくださいよ」と手渡された。 「微糖だか微乳だか知らねーけど、アハハ」
「断然微乳派なんでありがたく頂いてくわ」と僕。
普段あまりヒトとの接点というか交流を持たない僕だけど、こうした繋がりというのは細くても永く保っていきたいものだな、なんてことをガラにもなく考えながら駅までの道を歩いた。