高校のクラスメイトにH君という人がいた。
親しかった訳ではないのだが、浅黒い肌に白い歯が印象的なハンサムでスポーツ万能。 いわゆる完全に「イケてる」部類に属するオトコだ。
クラスの中でもちょっと悪ぶったヤンチャなグループにも溶け込む一方、そういったグループにありがちな「イケてない」方、つまり当時の僕(今でもだが)のような人種を下に見るようなそぶりは微塵も見せなかった。
僕と身長の並び順が近かったため、体育の授業ではよくペアやグループが一緒になったのだが、基本的なことがうまくできない僕に小声でさりげなく、決してイヤミっぽく感じさせない口調で的確なアドバイスを出してくれる。 そんなオトコだった。
H君には別のクラスに彼女がいて、たまに休み時間の廊下や下校時に一緒に歩く彼らを見かけることがあった。 H君同様すごく大人びた感じのする美人で二人はとても高校生カップルには見えなかった。 手を繋いだりとかイチャイチャするようなことは決してなく、まるで30年40年連れ添った夫婦のごとき安定した空気を常に周りに漂わせていた。
当時の僕は恋人なんてのはもちろん、女子と話すような機会すらほとんど無いエリート童貞街道まっしぐらの高校生で、そんなH君カップルは完全に雲の上のような、まるで別世界に存在するかのような存在であり、羨ましいとかいう感情すら起こらなかった。
一切の嫉妬すらも起こさせない。 それがやっぱりH君のスゴさを表していたんだと思う。
今回、なぜこんな話を書いたかと言うと、昨日買い物に出掛けたショッピングモールでH君にそっくりな男性を見かけたから。 僕は今、高校時代とは全く別の場所に住んでおり、その男性がH君本人である可能性は限りなくゼロに近いのだが、浅黒い肌と白い歯はそのままに熟成したダンディズムを身に纏ったその姿は、僕が当時潜在的に憧れていたのであろうH君の現在、そうであって欲しいと思わせるものだった。
H君はおそらく僕のことなんて覚えてはいないだろうけど、もし彼が今の僕を見たらどう感じるだろうか。 そんなことを考える。
一応エリート童貞こそドロップアウトしたものの、今や自他共に認めるエリートボッチ。 陰キャ、コミュ障っぷりは当時をはるかに上回っているのは間違いないだろう。
懐かしい邂逅(恐らく別人とすれ違っただけでも)ではあったけど、結果的に自分自身の成長の無さ、いやむしろ退化を痛感させられるというちょっぴりだけ悲しい出来事でもあった。