名画座の想い出。

もう今から20年は前の話になる。 当時東京に住んでいた僕は、週一回の平日休みが来ると独りでしばしば映画を観に行った。 別に映画マニアでも、特別詳しい訳でも無い。 ただ単に他にすることが無かったのと、一緒に出掛けたりする相手もいなかったので、消去法で映画が選ばれていたのだと思う。

それでも映画館で映画を観るのはやはり楽しい。 そして財布へのダメージをできる限り少なくするために必然的に安く観られる方法を模索するようになった。

クーポンを使ったりレイトショーを狙うといった方法もあったが、僕が最も気に入っていたのは2本立てが安く観られる名画座に行くことだった。

路面電車に乗って終点の大きなターミナル駅で降りる。 もうハッキリとは覚えていないがそこから10分弱くらい歩いたところにあったかと思う。 ボロボロとまではいかないが決してキレイとは言えないその名画座は、いつも公開から半年から1年くらい経ったくらいの、最新では無いけども古くも無い、普通であればレンタルショップで借りて観るような映画を2本で800円か900円で上映していた。 いわゆる「二番館」「三番館」と呼ばれるスタイルになろうか。

当時はまだインターネットなんてものは無かったから、いつも「ぴあ」で上映作品を調べていたのだが、幸いと言うか不思議なことにその名画座で上映されている映画は大抵2本の内どちらかが、あるいはその両方が僕の興味を引く作品であった。

そりゃあもちろん2本とも観たい映画であれば最高だが、なにせこの値段で2本観られるのである。 不満を言える筋合いではない。 たとえ1本がイマイチであっても構わない。 それにもしかしたら思わぬ映画との出会いがあるかもしれない、と僕はなるべく食わず嫌いをしないよう努めたつもりだ。

そこで人生を変えるような作品に出会ったかどうかはわからない。 間接的にそういう映画もあったのかも知れない。 当時観た映画の中に何年後かに、あるいはもっと後になって何度かレンタルDVDで観返している作品も多いから。

今回なぜこんな記事を書こうと思ったかと言うと、先日ネットでとある調べ物をしていた時、たまたまこの名画座に関連した記事を見つけたからだ。 残念ながら既に閉館となってしまっていたのだが、当時の記憶が急によみがえり懐かしくてたまらなくなった。

現在「名画座」と呼ばれる映画館は東京でも10件程度しか残っていないらしい。 東京ですらこれだから他の地方都市においては言わずもがなである。

今ではレンタルどころか、ネットでオンデマンドでいくらでも好きな作品を観られる時代。 確かに利便性や効率から考えればわざわざ古臭い名画座に行く理由は見当たらないかも知れない。

しかし、単なるノスタルジーに浸ってはいけないとは思いつつ、この古き良き、そして「お独りさま」にも優しいこの文化が末永く続いて欲しい、そう強く願った。

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